みなと町のピーターパン

Original
原作者
Arche Sechsbaum
絵師
梅木夕夏
声優
映像監督
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    とある みなと町に、ぼうしや が ありました。ここ の 親方 は、すぐれた しょくにん でしたが、きびしい人でした。「何を やってんだ、ピーター!フックだ!」
  • ぼうし の しゅうり をしているのは、ピーター、いやピートです。はたらきはじめてから 1年がたちますが、まだ ぼうし作りを 教えてもらえません。長い下ばたらき に ふまん を つのらせる ピート ですが、親方の 一人むすめ、ウェンディの おうえん で、何とか つづけてきました。
  • オウムの ティンクも、ピートの そばで エールを おくります。「何してるんだ、ピーター!フックだ!」「うるさいティンク。おれは ピーターじゃなくて、ピートだよ」
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    そんなピートにも、気もち が はれる ばしょ が あります。それ は ねむり に ついた後に おとずれる ゆめのせかい「ネバーランド」。
  • 今夜は、思いを よせる ウェンディを かいぞく から たすけ出し、ウェンディと ともに 夜空をとびまわっていました。「フック船長!にどと ウェンディを さらったら、ダダじゃ おかないぞ!」
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    リーン!リーン!朝が やってきました。ピートは、今日も しごとで 親方に どやされると思うと、やる気が おきません。ふと見上げると、かべ に かかった お気に入りの ハット。むかし、父親から もらったものです。ピートは、親方と出会った 1年前の 夜のことを 思い出しました。
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    それは、きょねん、クリスマス前の さむい夜でした。しごと も ろくにせず、ふりょうなかま と わるさばかり していたピートは、ぼうしや へ ぬすみ に 入ったのです。きんこ を 見つけたとたん、後ろから とんできた ティンクが さけびました。「ドロボー!ドロボー!」
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    ピートが 外へ にげようと すると、ドアのところ には 親方が 立っていました。その きびしい まなざしは、父親そっくり でした。
  • 「ごめんなさい」「あやまる時は、ぼうしはとるもんだ」親方は そう言うと、ピートに 店で はたらくことを すすめたのです。ピートにとって、み に しみる ことばでした。
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    あの夜、親方が 見も知らぬ自分に かけてくれた なさけ を、わすれてはいけない。一人前の ぼうし しょくにん に なるまで、がんばりつづける と けつい を 新たにしたピート。毎日、ぼうしばらし に はげみます。そして 少しずつ、ピートの ぎじゅつは じょうたつ していきました。
  • そして ついに、まちにまった しゅんかん が おとずれたのです。「明日から、ぼうし の 作り方を 教えてやる」親方の ゆるし に、まっさきに よろこんだ のは ウェンディでした。「ピート、よかったね」うれしさ の あまり、ピートの 目から しぜんに なみだが こぼれおちました。
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    しかし、つぎの朝、大じけんが おきました。きんこ に あった 店の売り上げが、すべて きえていたのです。きのう、さいご まで さぎょうば に いたのは ピートでした。そのため、親方 は ピートを うたがいました。「おいフック、いや親方、おれのことを しんじていないじゃないか」
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    親方は だまって何も言いません。ウェンディが止めるのもきかず、店から とび出すピート。ティンクも それを おって とんでいきました。
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    ピートが行きついたのは、下町の いざかや「ネバーランド」。一年前まで、まいばん、あくゆうたち と かよった店です。ピートは一人 あびるように、さけ を のんでいました。そのかたには、いつの間にか ティンクが とまっています。「なんで、ウェンディじゃなくて、お前がついてくるんだ!」
  • しばらくすると、後ろから むかし の なかま の 声が聞こえてきました。「一年前のピートの しかえし を してやったのさ」
  • ぼうしや の お金を ぬすんだのは、あくゆう の 一人だったのです。いかり が こみ上げるピート。それを あおる ように ティンクが さけびます。「ピーター、ガンバレ、ガンバレ」
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    ピートは あくゆうたち に、なぐりかかりました。「金を かえしやがれ!」「かえすものか」なぐりあい で いざかや は 大こんらん。
  • うでっぷし には じしん がある ピートですが、なんせ あいて は 3人です。店の きゃく は だれ も止めません。つかれはてた ピートは、3人に つぎつぎと なぐられてしまいました。
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    らんとう が 終わると、あくゆうたち は さっさと立ちさり、ピートは気をうしない、ゆか に たおれています。ぬすまれた お金を 取りかすことは できませんでしたが、かれの はれあがった顔には、えみ が うかんでいました。
  • じつは、ピートの 頭の中では、「ネバーランド」が広がっていたのです。まわり いちめん、星が かがやく 夜空の中を、ウェンディの手を引いて とびまわっています。2人は とても楽しそうです。
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    よく朝、顔を はらしたピートは、店の前で たたずんで、なかなか 中に入ることが できません。それに気づいて ドアから出てきたのはウェンディ。「ピート。どうしたの、そのきず。早く入って」あいかわらず かた に とまっているティンクも、ピートを けしかけます。「ピーター、早く、早く」
  • それでも もじもじするピート。すると、店の中から おだやかな 親方の声が 聞こえてきました。「早く入れ・・・」
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    店の中に入ると、ピートは ゆか に 手をついて 頭を下げました。店の お金をぬすんだのは、むかし の なかま であったこと。お金を とりかえすことが できなかったこと。ピートは、くやしそうに 話しました。しかし、親方は だまって さぎょう を つづけています。
  • 聞いていたウェンディは、いたたまれなくなりました。「お父さん!何とか言って!」すると親方が、さぎょう を しながら ぽつりと言いました。「ピート。やくそく どおり、今日から ぼうし作りを 一から教えてやる」
  • 親方が はじめて ピートと よんだのです。ピートの ほほ に なみだが ながれました。
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    ぼうしずき の しみん から あいされる 町のぼうしや。今日も 親方と ピートが すてき な ぼうしを 作るため、いそがしそうに はたらいています。「ピーター!早く、ピーター!」「だから言ってるだろ、ティンク、おれはピーターじゃなくて、ピートだって」